Tibayan Designers & Crafters の歴史
「第一話 TDC設立」
ココナッツの殻で何か作れないか
2013年初め、ミンドロ島に派遣されていた先輩隊員Nに、
「ココナッツハンディクラフトセミナーを手伝ってくれないか?」
と打診されたのが始まりだった。
僕(百々)は青年海外協力隊としてフィリピンに派遣され、一年半が経とうとしている時であった。
家具製作の技術指導という活動内容で、いち高校教師として派遣されていた..
それにも関わらず、技術を身につけても仕事がない、生徒は全然話を聞かない、という状況に嫌気がさしていた。
「自分はフィリピンに何をしに来たんだろうか」
思い悩んだ。
挙句の果て、教師であるはずの僕が不登校になった。
配属先の学校とも生徒とも、全く良い関係が築けていない、そう思うと辛かった。
不完全燃焼中も良いところだ。
一週間近く家に閉じこもっていると、学校帰りの家具製作科の生徒たちが通りかかり、
「Hey Sir, Kumsta? (元気?)」
と笑顔で陽気に訪ねてきた。
生徒たちはとても無邪気で、人懐っこかった。
全く悪気もない、明るい奴らだった。
「ただ、彼らは僕と関わりたかったんじゃないか」
いたずらにふざけてくる事もあったけど、僕に受け止めるだけの度量が無かったんだと思った。
狭い世界に留まっていたようだった。
「気分を変えた方が良い」
無理せず、他の世界も見ながら、再び活動をしようと思っていた。
未踏の島ミンドロ島への好奇心もあった、そして他の隊員との活動という新たな取り組みに興味もあった。
「Yes yes!」と藁をも掴む想いで返事をし、承諾した。
このセミナーによって、Tibayan Designers & Crafters(以下TDC)が結成され、ココナッツハンディクラフト事業が始まる事になった。
ミンドロ島初上陸。「貧しい...」
2013年3月、ミンドロ島には初めて上陸した。
まずマニラからの飛行機が出ていない。
正確に言えば空路もあるが、目的地であるミンドロ島北部ポラ町からは、真逆の南部に位置するサンホセという町に空港はある。
サンホセからポラまでバスで6、7時間掛かるらしい。
マニラからポラまでタクシー、バス、フェリー、バン、トライシクルを乗り継いで8時間の陸路を選んだ方が早く、安い。
ポーターが群がってくるバタンガス港からカラパン港まで船に揺られ1時間半、港周辺の町並みを見たときに感じたのは「貧困」そのものだった。
カラパン市はミンドロ島の州都だが、明らかに貧しい。
僕の任地はパナイ島イロイロ州ドゥエニャス町だったが、住民の住まいや生活の様子から見ると、どう比べてもミンドロ島は貧しかった。
トタンの屋根、トタンの壁、トタン、トタン....トタン屋は儲かるのかもしれないが、おそらく現地住民の儲けは少なそうだと思った。
ポラに到着... 思いのほか気持ち良い町。
ポラに着いたときには、既に移動の疲労と車酔いでクタクタだった。
フィリピンでの移動は日本の3倍疲れるというのは主観だが、大方正確な数値だろう。
そんなしんどい移動の後に待っていたのは、思いのほか気持ち良い町、ポラだった。
まずポラ湾という穏やかな湾に面していて、海風がとても気持ち良い。
静かで、のんびりとしたフィリピンの田舎の港町という雰囲気。
朝早くには、漁師は小さな船で海へ出ていき、子供達は海辺で走り回って遊ぶ。
夕方にはのんびりと砂浜を人が歩いている。
そんな人々の様子を眺めているだけで、ポラの住民の暮らしと海の関係を理解できたような気がした。
僕の任地は海に面していない町だったから、海のある光景がとてもフィリピンらしく新鮮だった。
気持ちのいいポラ湾の風に疲れは癒された。
セミナーI 前夜。何も決まっていない…
セミナー内容は前夜になっても決まっていなかった。
未知の素材ココナッツの殻をどう活かせるのか、良いアイデアが全く浮かんでこなかったからだ。
まず殻が球体であることが良い特徴でありながら、大きな制約であっだ。
そしてタイルの様に、硬く粘りがないため欠けやすい。切るより、削る加工が適している。
衝撃や曲げに弱いが、軽い。
独特の濃い茶色の肌で、少し油分を含んでいる。
既にボタンやタイル状の製品は市場に出回っていた。
「月並みだが、適当な形に削ってキーホルダーでも作ってみよう」
観光業の盛んなフィリピンだ。地域独自の何かをモチーフにした土産品を作り、為替の強い外貨を観光客の外国人に落としてもらおうと考えた。
早速ポラやミンドロ島について調べてみると、タマラウという絶滅危惧種の水牛が、世界で唯一ミンドロ島に生息していると知った。
このタマラウをモチーフにしたデザインにしようと即決定した。
絶滅危惧種タマラウの特徴は、頭のツノの生え方が一般的な水牛カラバウと違う。
普通のカラバウは、側頭部からツノが生えるが、タマラウは鬼のように頭頂部から生えている。
夜な夜な、糸鋸でココナッツの殻を削った。
こうして、とてもシンプルなタマラウキーホルダーが生まれた。
タマラウが住民に火をつけた?
セミナーは僕のペーパーワークと、先輩隊員Sのブレスレット作りの2つのグループに分かれた。
参加者はTARCAのメンバーだ。
セミナーの最後に例のタマラウキーホルダーを少し紹介してみた。
理由は全くわからないが、住民達は「Cute!」と関心を示した。
ブレスレット作りも女性メンバーに好評であった。その日のセミナーはそのまま終わった。
後日、先輩隊員Nのフィリピン人のCoworkerからテキストが届いた。
「TARCAメンバーがタマラウキーホルダーを作りたいと興味を示しているようだ」とのこと。
今までTARCAはイワシの燻製事業や野菜販売のサリサリストアなどの事業を行ってきたが、買い手が見つけられなかったり、組織内部で不正があったりと頓挫ばかりしていた。
そんな信用も意欲も無いと考えられていたTARCAが、少しやる気を出した事に、フィリピン人の同僚も驚き、これを機にココナッツハンディクラフトセミナーIIが計画されることになった。
TDC結成へ。
セミナーIIはTARCAのクラフト事業のメンバー選考が目的だった。
実際に機械や手工具を使用して、例のタマラウホーンキーホルダーを作らせ適性をみた。
フィリピンでは家族や親戚を優先して採用させることが多い為、個人の能力をを判断基準にした。
最終的に選ばれたメンバー7人を、ここで少し紹介したい。
まずクラフトチームの3人。
写真左端のジョーイ。非常に仕事が丁寧で、性格穏やか。
その隣のアドアー。仕事は早いが、荒い。ひょうきんな性格。
次は一番右端のインダイ。女性でありながら機械や刃物に物怖じせず、かつ仕事が一番丁寧。
次にブレスレットを担当している編み物チームの女性3人。左から3番目にいるのがキャサリン(写真下)。
手先が器用で、安定して製作をしていた三児の母。
その右隣はアイリーン。穏やかな静かな性格で、TARCAの役員を務めていたこともある。
そして左から2番目のローズマリー。笑顔で、ものづくりを楽しんでいた。
そして最後に右から3番目が事業全体のマネージャー、コンセプション(写真上)。
性格が明るく、英語が堪能、 積極的に発言するリーダー気質、ただ製作の方はあまり向いていない。
この7人が初代メンバーであり、Tibayan Designers & Crafters (TDC) と名付けた。
Tibayan はTiguihan, Batuhan, Bayananという3地区の名前を総称したものだ。
TARCA及びTDCメンバーはこの3つの地域出身者で構成されている。
こうしてTDCは始まった。